SCMのDX

SCM(サプライチェーン・マネジメント)とは

サプライチェーン(供給連鎖)とは、「商品が製造され消費者のもとに届くまでの一連の流れ」を指します。
商品や資金は、このサプライチェーン上の複数の企業や部門間を流れていきます。

日本産業規格JISの生産管理用語では、サプライチェーン・マネジメント(SCM、供給連鎖管理)は「資材供給から生産、流通、販売に至る物又はサービスの供給連鎖をネットワークで結び、販売情報、需要情報などを部門間又は企業間でリアルタイムに共有することによって、経営業務全体のスピード及び効率を高めながら顧客満足を実現する経営コンセプト」と定義しています。言い換えると、企業の競争力を高めるために、モノのやりとりがある複数企業間を含めて、調達から生産、物流までのすべてのプロセスを効率的にマネジメントすることです。サプライチェーン上の各企業や部門が各々のやり方で製造・管理を行ってしまうと、材料や在庫の過不足、リードタイム長大化などの問題に繋がります。そこで、情報の共有によってモノと資金の流れを最適化し、様々な無駄を排除したうえで業務効率の改善をしなければいけません。この考え方こそが、サプライチェーン・マネジメントです。

近年、製造業はさまざまな課題に直面しています。
パンデミックや国際政治の対立により、 エネルギー資源不足、物価上昇、物流の混乱といった課題が顕在化し、サプライチェーンの混乱を引き起こしています。
このような状況下で、サプライチェーンの課題を解決していくための鍵となるのがITを活用した「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

DXとはどのようなもので、どのような効果をもたらすのでしょうか。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の提唱者であるエリック・ストルターマン氏は、2022年、民間企業におけるDXについて

「デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業がビジネスの目標やビジョンの達成にむけて、その価値、製品、サービスの提供の仕組を変革することである。」

引用元:DXの定義の変遷「提唱者によるDXの定義の改訂内容(2022年)」-DIGITAL Transformation Lab.-

と定義づけました。
また、DXを正しく推進するためには

「DXは戦略、組織行動、組織構造、組織文化、教育、ガバナンス、手順など、組織のあらゆる要素を変革し、デジタル技術の活用に基づく最適なエコシステムを構築することが必要である。」

引用元:DXの定義の変遷「提唱者によるDXの定義の改訂内容(2022年)」-DIGITAL Transformation Lab.-

と述べています。

つまり、企業全体の価値向上に向けたIT化による「デジタル技術の活用」をきっかけとし、新たな仕組みを構築するという大局的な変革こそがDXの核心であり、ITに投資をする際に目指すべきゴールです。たとえIT投資に力を入れていたとしても、非合理的な現状のやり方を踏襲していては、本質的なDXとはいえません。

それでは、具体的にどこに目標を置き、何から手をつけていけばいいのでしょうか?
製造業において、最小限のリソースでもDXを成功させるポイントをご紹介します。

日本のSCMのDXが失敗する理由

製造業のDXテーマとして、SCMや生産管理のDXを進めている企業も多いのではないでしょうか。
しかし、「SCM改革のため思い切ってITに投資をしたものの、なぜかうまくいかない。」「生産管理のシステム導入をしたが、効果がいまいち感じられない。」そういった声もよく耳にします。
日本の製造業では、他国と比較してもIT投資対効果が低いと言われています。
日本の製造業においてIT投資対効果が低い理由は主に2点あります。

IT投資対効果が低い理由① 導入コストの高さ

日本ではパッケージソフトの導入は少なく、IT投資の9割が現在の業務に合わせた導入コストが高いカスタマイズや受託開発にかけられています。
しかし、システム導入のコストとその効果は必ずしも比例しません。日本の1.4倍ほど高い生産性を誇り、IT投資額も伸びているアメリカでは5割弱がパッケージソフトであることからも、受託開発やカスタマイズを好む日本の製造業が特殊であると同時に、このシステム導入費用の高さこそがDXの高いハードルとなっていることが分かります。

日本の製造業でIT投資対効果が低い理由② 導入効果の低さ

日本ではできるだけ”現状維持”を目指す受託開発やカスタマイズを行う現状があり、”改革の意識”は不足しています。
そのため、システム導入による変化が単なる作業の自動化や効率化にとどまり、微々たる成果しか得られず、会社の競争力強化や経営改善に至るほどの変革にいたりません
これが、導入効果の低さの要因です。IT投資で効果を出すためには業務プロセスの見直しや組織改革は必須と言えます。
大切なのは投資額そのものではなく、システム導入の目的なのです。

SCMのDXを成功させる4つのポイント

それでは、DX成功のためには何に気を付けるべきでしょうか?
ポイントを4つ、ご紹介します。

1. SCM・生産管理における経営課題の改善を目的とする

システム導入によるDXで高い成果を得る重要なポイントは、DXの目的を、経営課題の改善を目的とすることです。そして、その目的を明確にし、経営層と現場で共通理解を図ることが不可欠となります。
目的を考える際は、①顧客への価値の向上と②収益性の改善の2つを軸に考えることをおすすめします。

① 顧客への価値の向上 短納期化、納期即答、納期遵守率向上
ひとつめの目的の軸は、顧客への価値向上です。SCM・生産管理の改革において達成できる顧客への価値とは、まずは短納期化、すなわち受注から出荷までのリードタイムの削減です。そして、顧客への納期回答をなるべく早く行うこと、約束した納期を守ることも重要です。

② 収益性の改善(収益性=お金を増やす力=利回り)
2つめの軸は、収益性の改善です。収益性には様々な観点がありますが、特に、「利回り」の観点が重要です(詳細はセミナーで解説しております。お問い合わせください)。
ここでも、生産リードタイムの短縮と在庫削減が鍵となります。

生産管理におけるDXの目的

現場担当者のみでDXの目的を設定すると、「現状の帳票は変えられない」「全部必要としか判断できない」などと改善できない要素が出てきてしまいます。業務全体を俯瞰的に見渡すことができ、理解している責任者の積極的関与が必須です。

2. 業務改革のセオリーに則った手法・手順で実施する

DXの成功の2つめのポイントは、業務改革のセオリーに則った手法・手順で実施することです。

世の中には業務改革のセオリーが存在します。改善の科学、IE(インダストリアル・エンジニアリング)の手法が役に立ちます。ECRSの法則、動作経済の原則、ニンベンのついた自働化などがキーワードとなります。

業務改革のプロセスは、レヴィンの3段階組織改革プロセス(解凍、変革、再凍結)がSCMのDXにおいても当てはまります。1.DXの目的で示した通り、「今までのやり方・組織文化では通用しない」「変えていかなければ、会社の経営状態に悪影響を及ぼす」という共通認識と雰囲気を醸成した後、新しいやり方を検討・学習・実践し、成功体験を積み重ねることで、新たなやり方を定着させます。その結果、「経営課題の改善」 という目的から外れることなくDXへの動きを進めていくことができます。

3.SCMの 基本知識、セオリーに基づいた業務設計

SCMの基本知識、セオリーを踏まえた業務設計を行うことが重要です。おすすめは、JIS(日本産業規格)の生産管理用語を確認することです。自社では当たり前となっている用語、やり方が、標準的なものであるとは限りません。外部のベンダとのやりとりも、標準的な言葉を使うことでコミュニケーションの精度があがります。また、自社の現在のやり方を見直す際に、変えるべき部分、残すべき部分を見つけだすための参考になります。自社の生産に合うシステムも見つけ出しやすくなります。

4. SCM全体を見渡して、リアルタイムに管理できる仕組みを構築する

1.DXの目的や2.業務改革のセオリーに則った手法・手順で実施するで示した通り、DX成功のためには第一に「経営課題の改善」を目指すべきゴールとして共通で掲げることが大切です。そのためには、サプライチェーン上の情報共有とリアルタイムな管理が不可欠な要素となります。

リアルタイムなSCM管理

サプライチェーン全体の可視化を促進し、変化に迅速に対応できるようにすることで、顧客への価値の向上と、収益改善、生産性向上を成功させる鍵となります。

最後に

製造業は、数々の課題があるなかでも高い生産性を持続させていくために、デジタル化の推進に取り組む必要があります。DXの成功に向けた4つのポイントをもとに、サプライチェーン全体の見直しと効果的なDXを進めていくことが、これから成長していくための大きなステップとなるでしょう。