生産管理方式と生産形態

生産管理の方式にはいくつかの類別があります。
また、生産管理方式には、生産形態(見込み生産、受注生産、個別生産)との相性があります。生産形態と相性の良い生産管理方式で管理すると、効率よく合理的に管理することができます。しかし、相性の悪い生産管理方式を使うと、効率が悪いばかりでなく、管理したいことが管理できなくなったりします。 
 
生産形態と相性のよい生産管理方式を選択するために、代表的な生産管理方式を整理しましょう。

代表的な生産管理方式

代表的な生産管理方式3種類と、その概要と特徴、生産形態との相性を説明します。
 

1.製番管理

シンプルな管理方式です。
受注ごとに製番(製造番号)を採番し、製番ごとに必要な部品や材料と、やるべき作業を決定して、調達と作業の進捗を管理する方式です。プロジェクト型の管理と似ています。 
 
進捗管理を行うことで、在庫の管理にもなっているので、在庫管理の仕組みが必要ありません。 原価も製番ごとに積算していけばよいので、原価の集計もシンプルです。
 
個別生産(ETO;Engineering To Order)に向いています。見込み生産(MTS;Make To Stock)や、受注生産(MTO;Make To Order)には向いていません。共通品の引き当てができないからです。

2.MRP(Material Requirement Planning:資材所要量計画)

販売計画と受注に基づいて、最終製品の出荷計画を決めて、BOM(Bill of Material:部品構成表)を用いて、必要な部品・材料の調達、製品や中間品の生産計画を計算する方式です。この計算をMRP計算と言います。MRPⅡ、TOC、APSなどは、MRPの改良版です。
 
在庫管理をする仕組みが必要です。 MRP計算の課程で、在庫を引き当てて、追加で必要となる資材の量を計算するためです。原価計算も製番管理のようにシンプルにはできず、それなりの仕組みが必要です。MRP計算はエクセル+人手でも可能ですが、品種数が多くなってくると、計算負荷が高くなります。
このような理由により、業務の仕掛けが大きくなり、なんらかのコンピューターシステムが必要となる場合が多い管理方式です。
 
見込み生産(MTS)と受注生産(MTO)に向いています(確定受注だけを用いればMTOになりますし、販売計画も入力すればMTSになります)。 まとめ調達、まとめ生産、デカップリング・ポイントもうまくコントロールすることができます。
個別生産(ETO)には向いていません。在庫管理が必要のないのに、在庫管理が必要になることや、共通品の概念を必要としないのにBOMを作ることが理解しにくく、作業量が無駄に多くなるからです。

3.カンバン方式

トヨタ生産方式(JIT、リーン生産方式、TPSなどとも呼ばれる)の中で使われる生産方式です。
工程間に在庫を持っておき、後工程がその在庫を使うとその情報が前工程に伝えられます。前工程は、情報を受け取ってから所定の時間以内に生産を行い、在庫を補充します。
情報の伝達にカンバンを使うので、カンバン方式と呼ばれます。
 
一見、簡単な仕掛けで実現できるように見えます。また、昔のMRP方式(改良前のMRP)に比べて少ない在庫量で大量の生産ができることで世界的な注目を集めました。
たしかに、計画や管理の仕組みはシンプルです。しかし、カンバン方式を成立させるためには、適切な在庫量の設定、生産能力とのバランス、生産量が大きく変動しないための仕組み(生産の平準化)とそれを担保する販売の平準化など、運用の仕組みを用意周到に整備する必要があります。 
 
これらの運用の仕組み・改善の取り組み・管理方式に加え、考え方の基礎となる哲学、すべて含めてトヨタ生産方式と考えてください。管理手法の上辺だけを真似をすると失敗して大きな痛手を被ります。

基本を通してからアレンジする

代表的な3つの生産管理方式を紹介しました。
皆様の現場の生産管理方式はどの方法に近いでしょうか。また、どの生産管理方式が向いているでしょうか。
もちろん、現場は千差万別なので、ぴったり合致することはないでしょう。各現場に合わせてアレンジしなければならない局面は必ずありますし、独自の方法を考えなければならない場面もあるかもしれません。

しかし、ゼロから自己流で考えたり、現状の問題点を積み上げて対処療法的に解決しようとしたりするのは得策ではありません。今回紹介した管理方式は、長年研究され、実践され、生き残ってきた方式です。それなりの合理性と汎用性があります。生産形態と相性の良い、基本となる管理方式を中心に、局所的にアレンジするほうが、本質的な改善に近づき、良い結果に早く到達できると思います。

昔からのやり方で苦しむパターン

「昔から我が社はこうやってきたから」「我が社のやり方はこうだから」と、相性の悪い生産管理方式による管理を続けて、たいへんな苦労をしておられる会社を見かけます。

品種や生産量の少ないときには、生産形態と管理方式が合っていなくても、不合理さを補うための業務量は少なく、苦しみはまだ小さいのです。そのため、仕掛けが小さくて、手軽に運用を始められる管理方式を選択することも多いと思います。あるいは、他の事業部の管理方式をそのまま移植して事業を開始する場合もあることでしょう。

やがて品種や生産量が増えてくると、生産形態と合わない苦しみが大きくなってきます。同じやり方を引き継いでいるうちに、業務量が膨れ上がります。しかし、変化がゆっくり起こってきたため、苦しみの原因に気づけないこともあります。意を決することができず、管理方式を変更できないまま、ずるずると続いてしまっている場合も見受けます。

システム導入時の注意

システムの導入時などは、昔からのやり方を見直し、相性の良い管理方式に切り替えるチャンスです。「いままでの業務がそのままできるように」と、相性の悪い管理方式をそのままにすると、たいした成果は望めません。
一度立ち止まって、自社に適した生産管理方式から検討することをお勧めします。そして、適した生産管理方式を得意とするシステムを選定するとよいでしょう。

システム化とは、コンピューター化することだけではなく、業務を合理的な方式に変更することを含むものだと考えてください。

製番管理とMRPの違いについて考える コラムもご覧ください。