デカップリング・ポイントとは 見込み生産と受注生産の境目

工程によって生産形態を変える場合、部品や原材料または、どこかの中間品まで見込み生産(MTS)で、それ以降の工程を受注生産(MTO)にします。見込み生産と受注生産の境目となるところに、在庫を持つことになります。この境目、もしくは境目の在庫の事を、デカップリング・ポイントと言います。
デカップリング・ポイントの言葉の意味としては、カップリングが解除されるポイントということです。受注生産の後半工程は、在庫や生産計画が受注と対応づけられています。対応つけられていることを「カップリング」と言っているのです。ところがそのポイントより前工程は、カップリングされていません。そのため、見込み生産と受注生産の境目のところがデカップリング・ポイントとなるのです。  

デカップリング・ポイントの身近な例

身近な例として、回転しないお寿司屋さんをイメージしてください。
 
カウンターの中の寿司職人は、注文を受けてから、柵(魚を捌いて刺身に引く手前の状態のブロック状のもの)から刺身を引いて、酢飯を握り、刺身と酢飯を合わせて一貫の寿司にして提供します。

つまり、回転しないお寿司屋さんの場合は、酢飯と柵がデカップリング・ポイントということになります。  

デカップリング・ポイントを設けるメリット

回転しないお寿司屋さんは、どうして柵と酢飯をデカップリング・ポイントにしているのでしょうか。
 
注文を受けてから飯を炊いて酢飯を作っていたのでは、お客様を待たせすぎます。また、寿司一貫分ずつ飯を炊くのは効率が悪すぎます。柵も同様にリードタイムの短縮効果があります。 また、柵は刺身のお造りにも、寿司にも転用ができるので、共通性が高いと言えます。
それに加えて、魚は空気に触れるほど鮮度が落ちるので、刺身に引いておくよりも柵のほうが、品質が保てるという効果もあります。   
 
製造業においても、デカップリング・ポイントを設定することで、以下の3点のメリットがあります。

1.受注から納品までのリードタイムの短縮
受注してからは、デカップリング・ポイント以降の工程の作業だけを行えばよいので、全工程実施するよりも短納期で納品することができます。

2.まとめ生産による生産効率の向上
デカップリングより前の工程や、部品や材料の調達は計画に基づいて行うため、まとめ生産が容易です。

3.在庫リスクの低減
完成品で在庫を持つと、受注と合致しない場合には長い間在庫となってしまうリスクがあります。一般に、製品→中間ユニット→部品・材料と、上流の工程に行くほど、共通性が高いので、上流側で在庫を持つことで長期在庫のリスクを低減できます。

寿司職人は、まるで生産管理のロジックを熟知しているように見事にデカップリング・ポイントを設定しているのですが、実際は逆です。
職人が経験則で良いやり方を編み出したのを見て、あとから理論に整理しているだけです。
生産管理のロジックには、このように経験則で編み出されたうまいやり方を後付けで理論化したものが多いのです。

デカップリング・ポイントの決め方

デカップリング・ポイントは、製品の特性だけで決まるわけではありません。同じ製品を作っていても、販売量や工程の流れなどにより適切なデカップリング・ポイントは変わります。

先ほどのお寿司を例にとっても、回転寿司店では、完成品の寿司をループ・コンベア上に在庫しています。完成品の寿司をデカップリング・ポイントにしているのです。単価を下げて、販売量を増やすために、寿司職人の効率を上げる作戦だと思います。
 
デカップリング・ポイントを決める代表的な方法を2つ紹介します。

1.工程と在庫品の性質から決める

次の3つのポイントに注目して、デカップリング・ポイントを決める方法です。
 
①リードタイム:デカップリング・ポイント以降の製造リードタイムが、お客様の要求する納期や、ライバル会社の納期よりも短くなるようなポイントを選ぶ。
②共通性:多品種の最終製品に比べて、ここまでなら共通性が高くて品種が少ないというポイントを見極めて設定します。
③賞味期限:長期間在庫を保存しておけるように、品質の劣化の少ない品目で在庫を持つようにします。   

2.成り行きで決める

工程によって、性質があまり変わらない場合には、上記のように明確にデカップリング・ポイントを決めにくい場合もあると思います。
その場合は成り行きで決めるという方法があります。 手順を示します。
 
①    中長期の販売計画を決める
②    販売計画に基づき、生産と調達計画を立案する
③    顧客からのオーダー(確定受注)が入れば、販売計画と順次入れ替える
④    計画通りに、調達・生産する
 
このようにして、受注(オーダー)とひも紐づついていない在庫が溜まったところが、デカップリング・ポイントです。
なんだか、いい加減なような感じもしますが、これはこれで理にかなった方法です。