SCMのDX

製造業においてDXを成功させるには、①経営課題の改善を目的に据える、②業務改革のセオリーに則る、③SCMの基本知識に基づいた業務設計を行う、④サプライチェーン全体をリアルタイムに管理する仕組みを構築する、の4つのポイントが鍵となります。
単なるIT導入ではなく、業務プロセスの見直しと組織改革を伴う変革こそが、顧客価値の向上と収益性改善を実現します。

本記事では、SCMのDXが失敗する原因を明らかにしたうえで、成功に導く4つのポイントを解説します。

SCM(サプライチェーン・マネジメント)とは

サプライチェーンの定義

サプライチェーン(供給連鎖)とは、「商品が製造され消費者のもとに届くまでの一連の流れ」を指します。
商品や資金は、このサプライチェーン上の複数の企業や部門間を流れていきます。

日本産業規格JISの生産管理用語では、サプライチェーン・マネジメント(SCM、供給連鎖管理)は「資材供給から生産、流通、販売に至る物又はサービスの供給連鎖をネットワークで結び、販売情報、需要情報などを部門間又は企業間でリアルタイムに共有することによって、経営業務全体のスピード及び効率を高めながら顧客満足を実現する経営コンセプト」と定義しています。

SCMの本質は、調達から生産、物流までのすべてのプロセスを、複数企業間を含めて効率的にマネジメントし、企業の競争力を高めることにあります。

サプライチェーン上の各企業や部門が各々のやり方で製造・管理を行ってしまうと、材料や在庫の過不足、リードタイム長大化などの問題に繋がります。そこで、情報の共有によってモノと資金の流れを最適化し、さまざまな無駄を排除したうえで業務効率の改善を図る——この考え方こそが、サプライチェーン・マネジメントです。

サプライチェーン・マネジメント(SCM)とは | 製造業のための生産管理入門 | ADAP

製造業が直面するサプライチェーンの課題

近年、製造業はさまざまな課題に直面しています。
パンデミックや国際政治の対立により、 エネルギー資源不足、物価上昇、物流の混乱といった課題が顕在化し、サプライチェーンの混乱を引き起こしています。
このような状況下で、サプライチェーンの課題を解決していくための鍵となるのがITを活用した「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

DXとはどのようなもので、どのような効果をもたらすのでしょうか。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の提唱者であるエリック・ストルターマン氏は、2022年、民間企業におけるDXについて

「デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業がビジネスの目標やビジョンの達成にむけて、その価値、製品、サービスの提供の仕組を変革することである。」

引用元:DXの定義の変遷「提唱者によるDXの定義の改訂内容(2022年)」-DIGITAL Transformation Lab.-

と定義づけました。
また、DXを正しく推進するためには

「DXは戦略、組織行動、組織構造、組織文化、教育、ガバナンス、手順など、組織のあらゆる要素を変革し、デジタル技術の活用に基づく最適なエコシステムを構築することが必要である。」

引用元:DXの定義の変遷「提唱者によるDXの定義の改訂内容(2022年)」-DIGITAL Transformation Lab.-

と述べています。

製造業DXの本質―IT投資の先にあるゴール

つまり、企業全体の価値向上に向けたIT化による「デジタル技術の活用」をきっかけとし、新たな仕組みを構築するという大局的な変革こそがDXの核心であり、ITに投資をする際に目指すべきゴールです。たとえIT投資に力を入れていたとしても、非合理的な現状のやり方を踏襲していては、本質的なDXとはいえません。

監修者 野本

DXは「ITツールを入れること」ではなく、「仕組みそのものを変えること」。ここを間違えると、投資が無駄になってしまいます。

それでは、具体的にどこに目標を置き、何から手をつけていけばいいのでしょうか?
製造業において、最小限のリソースでもDXを成功させるポイントをご紹介します。

日本の製造業でSCMのDXが失敗する2つの理由

製造業のDXテーマとして、SCMや生産管理のDXを進めている企業も多いのではないでしょうか。
しかし、「SCM改革のため思い切ってITに投資をしたものの、なぜかうまくいかない。」「生産管理のシステム導入をしたが、効果がいまいち感じられない。」そういった声もよく耳にします。
日本の製造業では、他国と比較してもIT投資対効果が低いと言われています。
日本の製造業においてIT投資対効果が低い理由は主に2点あります。

理由①:カスタマイズ偏重による導入コストの高さ

日本ではパッケージソフトの導入は少なく、IT投資の9割が現在の業務に合わせた導入コストが高いカスタマイズや受託開発にかけられています。
しかし、システム導入のコストとその効果は必ずしも比例しません。日本の1.4倍ほど高い生産性を誇り、IT投資額も伸びているアメリカでは5割弱がパッケージソフトであることからも、受託開発やカスタマイズを好む日本の製造業が特殊であると同時に、このシステム導入費用の高さこそがDXの高いハードルとなっていることが分かります。

理由②:現状維持志向がもたらす導入効果の低さ

日本ではできるだけ”現状維持”を目指す受託開発やカスタマイズを行う現状があり、”改革の意識”は不足しています。
そのため、システム導入による変化が単なる作業の自動化や効率化にとどまり、微々たる成果しか得られず、会社の競争力強化や経営改善に至るほどの変革にいたりません
これが、導入効果の低さの要因です。IT投資で効果を出すためには業務プロセスの見直しや組織改革は必須と言えます。
大切なのは投資額そのものではなく、システム導入の目的なのです。

IT投資で効果を出すためには、業務プロセスの見直しや組織改革は必須です。大切なのはシステムによる現状業務の再現ではなく、システム導入の目的です。

SCMのDXを成功させる4つのポイント

それでは、DX成功のためには何に気を付けるべきでしょうか?
ポイントを4つ、ご紹介します。

1. SCM・生産管理における経営課題の改善を目的とする

システム導入によるDXで高い成果を得る重要なポイントは、DXの目的を、経営課題の改善を目的とすることです。そして、その目的を明確にし、経営層と現場で共通理解を図ることが不可欠となります。
目的を考える際は、①顧客への価値の向上と②収益性の改善の2つを軸に考えることをおすすめします。

① 顧客への価値の向上 短納期化、納期即答、納期遵守率向上
ひとつめの目的の軸は、顧客への価値向上です。SCM・生産管理の改革において達成できる顧客への価値とは、まずは短納期化、すなわち受注から出荷までのリードタイムの削減です。そして、顧客への納期回答をなるべく早く行うこと、約束した納期を守ることも重要です。

② 収益性の改善(収益性=お金を増やす力=利回り)
2つめの軸は、収益性の改善です。収益性には様々な観点がありますが、特に、「利回り」の観点が重要です(詳細はセミナーで解説しております。お問い合わせください)。
ここでも、生産リードタイムの短縮と在庫削減が鍵となります。

DXの目的設定は、現場担当者だけに任せないことが重要です。
「現状の帳票は変えられない」「全部必要としか判断できない」といった、声が出やすいため、業務全体を俯瞰できる責任者の積極的関与が必須です。

生産管理におけるDXの目的

2. 業務改革のセオリーに則った手法・手順で実施する

DXの成功の2つめのポイントは、業務改革のセオリーに則った手法・手順で実施することです。

世の中には業務改革のセオリーが存在します。改善の科学、IE(インダストリアル・エンジニアリング)の手法が役に立ちます。ECRSの法則、動作経済の原則、ニンベンのついた自働化などがキーワードとなります。

業務改革のプロセスは、レヴィンの3段階組織改革プロセス(解凍、変革、再凍結)がSCMのDXにおいても当てはまります。

①解凍:「今までのやり方・組織文化では通用しない」「変えていかなければ、会社の経営状態に悪影響を及ぼす」という共通認識と雰囲気を醸成する
変革:新しいやり方を検討・学習・実践する
③再凍結:成功体験を積み重ねることで、新たなやり方を定着させる


この手順を踏むことで、「経営課題の改善」 という目的から外れることなくDXへの動きを進めていくことができます。

3. SCMの 基本知識、セオリーに基づいた業務設計を行う

SCMの基本知識、セオリーを踏まえた業務設計を行うことが重要です。おすすめは、JIS(日本産業規格)の生産管理用語を確認することです。
自社では当たり前となっている用語、やり方が、標準的なものであるとは限りません。外部のベンダとのやりとりも、標準的な言葉を使うことでコミュニケーションの精度があがります。

また、自社の現在のやり方を見直す際に、変えるべき部分、残すべき部分を見つけだすための参考になります。自社の生産に合うシステムも見つけ出しやすくなります。

4. SCM全体を見渡して、リアルタイムに管理できる仕組みを構築する

1.DXの目的や2.業務改革のセオリーに則った手法・手順で実施するで示した通り、DX成功のためには第一に「経営課題の改善」を目指すべきゴールとして共通で掲げることが大切です。そのためには、サプライチェーン上の情報共有とリアルタイムな管理が不可欠な要素となります。

リアルタイムなSCM管理

サプライチェーン全体の可視化を促進し、変化に迅速に対応できるようにすることで、顧客への価値の向上と、収益改善、生産性向上を成功させる鍵となります。

まとめ:製造業のSCMのDXで競争力を高めるために

製造業は、数々の課題があるなかでも高い生産性を持続させていくために、デジタル化の推進に取り組む必要があります。
DXの成功に向けた4つのポイントをもとに、サプライチェーン全体の見直しと効果的なDXを進めていくことが、これから成長していくための大きなステップとなるでしょう。

ポイント要点
1.経営課題の改善を目的とする顧客価値の向上と収益性改善を軸に、経営層と現場で目的を共有する
2.業務改革のセオリーに則るレヴィンの3段階プロセス(解凍→変革→再凍結)で組織を変える
3.SCMの基本知識に基づく業務設計JIS生産管理用語を参照し、標準的な知識で業務を再設計する
4.SCM全体を見渡したリアルタイムな管理・可視化サプライチェーン全体の情報共有と迅速な対応ができる仕組みを構築する

よくある質問

SCM(サプライチェーン・マネジメント)とは何ですか?

調達から生産、物流、販売までの供給連鎖を一元管理し、企業間で情報を共有することで業務効率と顧客満足を高める経営手法です。

日本の製造業でSCMのDXが失敗しやすい原因は何ですか?

IT投資の9割がカスタマイズや受託開発に費やされる「導入コストの高さ」と、現状維持志向による「導入効果の低さ」の2点が主な原因です。

導入コストが高い: パッケージの活用が少なく、現状の業務に合わせた高コストなカスタマイズや受託開発(全体の約9割)を優先してしまうため。

導入効果が低い: 現状維持を優先して業務プロセスの見直しや改革を行わないため、単なる作業の自動化・省力化に留まり、経営改善や競争力強化につながっていないため。

SCMのDXで最初に取り組むべきことは何ですか?

まず経営課題の改善を目的に設定し、顧客価値の向上と収益性改善を軸に、経営層と現場で共通理解を図ることが最優先です。

DXの目的を設定する際、注意すべきことはありますか?

現場の担当者だけで目的を設定しないことが重要です。
現場のみで進めると「従来の帳票や手順を変えられない」といった現状維持の思考に陥りがちです。
業務全体を俯瞰して理解している責任者や経営層が積極的に関与し、目指すべきゴールを現場と共通理解することが不可欠です。